■ 千年たっても

 今よりずっとみらいのこと、あしたよりもあさってよりも、つぎの春よりも夏よりも、らいねんよりもずっと先のお話です。

 あるところに赤い髪のひとと、青い髪のひとがいました。ふたりは同じところではたらいているともだちでした。
 ふたりはとっても仲良しでした。
 でも赤い髪のひとは、それよりもずっとずっと青い髪のひとがすきでした。いまよりもずっとずっと仲良しになりたいと思っていました。でもそれを青い髪のひとにいうことができませんでした。
 青い髪のひとも、ずっとずっと赤い髪のひとがすきでした。いまよりもずっとずっと仲良しになりたいと思っていました。でもそれを赤い髪のひとにいうことができませんでした。

 そんなふたりの、ある日のお仕事のことです。

 青い髪のひとがけがをしてしまいました。赤い髪のひとは助けてあげようと思いました。
 けれど青い髪のひとは、自分でできるからと赤い髪のひとの申し出をことわってしまいました。
 青い髪のひとは赤い髪のひとにきらわれたくなかったので、たよりないと思われたくなかったのです。
 いたみどめとねむりぐすりを飲んで、青い髪のひとは家に帰ってねむりました。
 赤い髪のひとはその日もいま以上に仲良くなれなかったことをかなしく思いながら、家に帰ってねむりました。

 次の日、赤い髪のひとはおしごとばに行きました。けれどいつまでまっても、青い髪のひとがきませんでした。
 赤い髪のひとが青い髪のひとのおうちに行くと、青い髪のひとはまだねむっていました。
 ねむりぐすりがすこしききすぎたのだと赤い髪のひとは思いました。でもいつまでたっても、ねむりぐすりがきれいさっぱりきかなくなるころになっても、どんなにまっても青い髪のひとはめざめませんでした。
 赤い髪のひとは青い髪のひとをびょういんへつれていきました。
 でもたくさんたくさんむずかしいけんさをしても、いろんなおくすりをつかっても、どんなにえらいお医者さんがみても、青い髪のひとはめをさましませんでした。ずっとずっとねむっていました。

 とうとう赤い髪のひとは、おなじお仕事をしているともだちに、青い髪のひとのこころのなかをみせてもらうことにしました。
 まだ仲良くなっていないのに、そのひとのゆるしもないのに、およばれもされていないのに、青い髪のひとのこころの中をのぞきみるのはすこしかなしくてつらいことでした。でも赤い髪のひとにとっては、ほかにどうしようもなかったのです。
 そうしてみせてもらった青い髪のひとのこころの中には、ふしぎなけしきが映っていました。

 青い髪のひとのこころのなかには、青い髪のひとじしんのすがたが映っていました。青い髪のひとのこころのなかの青い髪のひとは、やっぱりおなじようにねむっていました。

 青い髪のひとは、こころのなかで、夢みている夢をみていたのです。

 どうして青い髪のひとがそんな夢をみているのか、赤い髪のひとにはさっぱりわかりませんでした。
 もうけんさもおくすりも、なにもつかえるものがなかったので、赤い髪のひとは青い髪のひとをおうちへつれてかえりました。

 けれどじぶんのおうちへつれてかえり、じぶんのベッドに青い髪のひとをねかせたとき、赤い髪のひとはふとおもいだしたのです。
 青い髪のひとがけがをしたとき、赤い髪のひとはこう考えたのです。

 青い髪のひとが、けがのせいできをうしなって、たおれたりしたら、じぶんがやさしく手当てをしてあげられるのにな、と。

 青い髪のひとは、ふしぎなちからをもっていました。みらいのことがみえるちからです。
 青い髪のひとには、みらいがみえてしまったのです。たおれた青い髪のひとをやさしくしたいと思った赤い髪のひとの、こころが作ったみらいでした。

 赤い髪のひとともっと仲良くなりたいと思っていた青い髪のひとは、だからねむってしまったのです。ねむったままでもいいから赤い髪のひとともっとちかく、もっと仲良くなりたいと思ったのです。だからねむってしまったのです。
 そうしてねむったまま、ねむっているじぶんとやさしくしてくれている赤い髪のひととの夢をみているのです。ずっとずっとみているのです。

 赤い髪のひとはそのことに気がついたのです。だから青い髪のひとをねむりからめざめさせようと思いました。
 どうやって? いいえ、かんたんなことです。
 ねむった青い髪のひとにやさしくしたいと思ったのは、赤い髪のひとのこころ。だからおこすのも、赤い髪のひとのこころがあればいいのです。

「おまえがおきたら、もっともっと仲良くなろう。いままで話せなかったいろんなことを話して、いままで行けなかったいろんなところに行って、いままでみれなかったいろんなものをみよう。だからおきておいで、おれのだいじなひと。」赤い髪のひとはそういいました。

 青い髪のひとはきれいななみだのしずくをひとつこぼして、なみだのしずくとおなじ色のめをひらきました。
 それからふたりは、ゆびきりをして、千年たってもいっしょにいることをやくそくしました。そのほかにもたくさんたくさんいろんなことを話して、たくさんのやくそくをしました。でもそのぜんぶをきいたのは夜空でひかるお星様たちだけでした。